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次の日になって、夜になって、それでお祭りの二日目が始まる。
小堀で待っていると、みーちゃんがやって来た。堀の畔で腰掛けるぼくの横に歩いてくる彼女は、なんだかうっすらと、透けているような、ぼやけているような、そんな風に見えた。
「しーくん……」
そう言って腰掛けた彼女は、悲痛な表情を浮かべていた。服は濡れていて、なんだか生臭い。ピタリと身体に張り付いた白いワンピースを見て、それを濡らしているのはきっと汗ではないような、そんな気がした。
「はじめよっか」
彼女は湿っぽい髪を耳にかけて話し始める。しっとりと濡れたうなじは、やはりぼくを動揺させた。けれど、そんな雑念を懸命に振り払い、彼女の言葉に耳を傾けた。
「Yの話よ。昨日言ったけど、YはXを愛している。そして、憎んでもいる。やがてその二つの感情は、憎しみの方に大きく傾くの」
「うん」ぼくは彼女の腕を見た。水が染みこんでいそうな傷が、ひどく痛そうだった。
「そうして、YはXをいじめることにするの」
「いじめ?」
「そう、いじめ。YはXをいじめている。そして、Xはこの状況をどうにかしないといけないって、そう考えるようになるの」
「どうにかって……?」
彼女は、月明かりに照らされたその青白い顔を、歪ませる。
「しーくんは、青酸カリって知ってる?」
「毒薬だ」
「そう、シアン化カリウム……劇薬だね」彼女はそこで月を見上げた。「けれど、使い方によっては便利な薬でもあるのよ? 青酸カリは写真フィルム――その薄いものを現像するときに、強化剤として溶液に溶かして使われたりもするの」
「ふうん」
そう頷いてみたものの、ぼくにはサッパリ言っていることがわからなかった。
「そしてYの趣味は、写真だった。旧式の、デジタルではないカメラを使って写真を撮り、それを自分で現像したりもしていた」
「……もしかして?」
しかしこれに関しては、話の続きが読めた。
事実、彼女もまたおもむろに頷いてみせる。
「そう、Yはその趣味をつてに、青酸カリを手に入れることに成功したの。そして……」
「で、でも! XとYは血が繋がっているんだよね!?」
ぼくは想像通りの展開に、動揺を禁じ得なかった。恐ろしかった。昨日の、父の膝の上で見たテレビを――そのささやかながらも幸福な時間を、思い出していた。
考えるだけで、背筋が冷える。
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