『Xだけの最悪』

13/17

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 昨日、みーちゃんはYが女だと言った。そしてXはみーちゃんだ。ならば、Yは――母親だ。  彼女は切り傷だらけの腕をモゾモゾとさせてから、「それは質問なの?」と訊ねた。ぼくはそうだと肯定する。やがて、彼女はわかった、とばかりに頷き答える。 「そうね、XとYはたしかに血が繋がっている。でも、そんなことはこの場合には関係がないの。いえ……違うか。『だからこそ』、なのよ」  彼女はそうして、寂しげに微笑む。 「そして、Xは、そんなことはさせないと、そう思うの」 「そうだよ! 死んじゃいやだ!」  ぼくは、必死にそう叫んだ。彼女もそんなぼくを見て、表情を和らげつつ微笑んでくれる。 「そうね……その通りよ」  そうして、告げた。それがその日最後の、言葉だった。  彼女は立ち上がり、そして帰路につく。ぼくはそれを送り、城で手を振り合って、そして別れて帰った。  月明かりに照らされた、その彼女のお城の周辺は、いやに静かで、その静けさが異様な恐怖心をぼくに向かって煽った。  彼女は、死んでしまうのだろうか?  そんな不安ばかりが、ぼくの心を独占していた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加