『Xだけの最悪』

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 夏祭り三日目の夜がやって来た。今日でお祭りはお終いで、明日は後夜祭といって、最後に町の皆で篝火を囲むのが恒例となっていた。  そしてそんな、最後の祭りの日。みーちゃんは最後の話を始める。 「YはXの世界を終わらせようとしている」 「そんなことはさせない」  ぼくの毅然とした言葉で、彼女は励まされたかの瞳を向けて、それで何故だか次に、自嘲した。 「だから、Xは反撃を企てるの」 「反撃……?」  そう、と彼女は頷く。 「やがてXは知ることになる。Yが使う青酸カリの場所、それを知るの。そしてそれを手に入れる」 「え……まさか、みーちゃん……?」  今までとは別の恐怖が、今まで味わったことがないような異種の困惑が、ぼくに訪れた。  人はたやすく死ぬ。  だから、ぼくたちでも殺せる。  彼女は、ぼくの動揺をよそに、ただ黙って黒い水面を見つめている。その中で蠢く、ザリガニを見つめている。 「ザリガニ獲るの……初めてだったんだ。しーくんと出会って、はじめてしたの」 「…………」 「楽しかったなあ。しーくんとの時間は、ほんとうに楽しかったよ? しーくんは、楽しかった?」 「うん。楽しかった。みーちゃんと話すのは、楽しいよ。ザリガニを釣るのも、楽しかった」  彼女は残酷な笑みを浮かべる。 「そっか、そうだよね。ザリガニ、わたしも楽しかった。自分以外の命をもてあそぶのは、ほんとうに楽しいよね」  なにを言っているのか、ぼくにはわからなかった。 「変わらないよ。なにも変わらない。人をダメにするのなんて、ザリガニの殻を剥いて、それで尾と頭を切り離すのと一緒なの」 「なにを言っているの? みーちゃん」 「しーくん、今日の質問は、どうする?」  ぼくは、間髪いれずに答える。 「今日の質問は、Xはいつ、それを行動に移すのか、だ。答えてよ、みーちゃん」  彼女は暫し押し黙る。そして、ツバを飲み込んでから、それを言った。 「明日だよ。明日の夜九時。あの真っ白いお城で、その真っ赤な最悪は、起こるの」  ぼくは立ち上がる。  それで、その日は最後だった。  彼女はその白い城の門の中に消えていった。
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