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遠くの景色の中で、赤い灯火が見える。
きっとあの炎の周りでは、この町の大人たちが酒を飲み交わしていて、そして子供たちははしゃいでいるのだろう。
しかし、そこには行っていないはずの人間が、少なくともこの町に三人いる。
ぼくは、目の前にそびえ立つお城を眺めている。そしてこの中に、みーちゃんがいて、そしてその母親がいる。
深呼吸して、門を開ける。それから玄関に向かって歩いた。鍵は閉まっているだろうか? 否――この町で玄関に鍵を掛けるような人間はいない。
それに、たとえみーちゃんの家族が特別変わっていて、それで鍵を掛ける習慣があったとしても、それでも今日だけは開いているはずだ、とぼくは確信していた。
みーちゃんは、救って欲しいはずなのだ。ぼくに、止めて欲しいはずなのだ。だから、ぼくに一部始終を話した。故に、この玄関は、開いている。
扉のノブをひねり、そして手前にゆっくりと引く。
――開いた。
「……やっぱり」小声でそう呟き、そして足音を忍ばせて土足で家に上がる。中は暗かった。けれど、夜の闇に慣れたぼくの目には、それなりにはっきりと見える。
みーちゃんは、どこだろうか?
家の中を、探す。あたりは静まり返っていて、まるで誰もいないようだった。けれど、それは間違っている。いるのだ。この家には、今、女の子がいるはずだ。
そして実際にそれは、見つかった。
一階の、奥まった小部屋。そこを開くと、女がいた。
それは横たわっていた。
物が散らかった、掃除の行き届いていない汚い部屋。
その床の上で、寝そべっていた。
その女は、死んでいた。
その中で、なにやら透明な壜を見つけた。手に取ってみると、青酸カリであるらしいことが、臭いでわかった。
玄関の方から物音がした。この家の住人が帰ってきたようだった。ぼくはその死体の横に立っているところを、その二人に見つかった。悲鳴を上げられた。叫ばれた。みちる! と女の方が叫んでいた。それが母親であることはすぐにわかった。
しかし、みちる――つまりみーちゃんは、ぼくの知っているみーちゃんではなかった。
その死んでいたみちるは、成人女性だった。髪が長く、ぼさぼさで、着古して小汚い寝間着を着ていた。別人だ。これは、みーちゃんではない。
「みーちゃんは……?」
ぼくは、Y――つまり母親に問いかける。
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