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「Xは、どこに行ったの?」
ヒステリックに叫ぶそのYは、ぼくがおかしなことを言っていると思ったみたいだ。
「みちるは、そこで倒れているでしょう! お前がやったの!? 娘に何をしたの?」
「で、でも……みーちゃんは……」ぼくはポケットにしまってあったノートの切れ端を見せる。彼女はそこに書いてあることを読み、そして一つの単語に着目した。
「青酸カリ……? おまえ……まさか、そんな、どうしてこの娘を……」
ぼくはその部屋を飛び出した。走り出した。家を出て、小堀に向かった。いつもと違うルートの、その林の中で、寝袋とボロボロの白いワンピースを見つけた。わけがわからず、畔へと走る。すると土の上にメッセージがある。
『親愛なるXへ。
きょう、満たされ続けた世界は終わる。
ありがとう。そして、さようなら。
あなたの愛する腹違いの妹、Yより』
頭の中で、彼女から聞いた『最悪の話』を思い出す。みーちゃんが、Yで、Xはぼく。ぼくといる間、彼女はなにひとつ嘘を言っていない。
それからふと、想像する。
どこか遠くの学校に通って、ぼくの知らない本当の母親と生きてきたみーちゃん。それでも、実の父親と暮らしたいと思うみーちゃん。満たされている幸福なぼくに嫉妬するみーちゃん。夏休みに家を飛び出し、この林で一人夜を過ごすみーちゃん。一緒に『途中まで』帰る際、あの白い家の門をくぐり、けれど決してその家には入ろうとしないみーちゃん。林で過ごすうち、薄汚れて、傷ついていったみーちゃん。
みーちゃんは一言も、YはXを殺すとは言っていなかった。
Yは、Xの世界を終わらせる。
そう言っていた。
近くの祭り囃子の音に混じって、遠くで響くサイレンの音が聞こえる。ぼくは、その手に握る青酸カリの壜を見つめた。
たしかにぼくの、今までの世界は、ひとつの終りを迎えるだろう。
――最悪……この世の終わりだね……。
それは、Xだけの最悪で、ぼくだけの終わりだった。Yが終わりを迎えることはない。
でも、それがいい。
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