『Xだけの最悪』

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 みーちゃんは女の子にしては珍しく、ザリガニに対してまるで偏見を持っていなかった。  それどころかつり上げたら嬉しそうにしながらぼくを見て、「よかったね」って言って褒めてくれて、それから釣り上げたザリガニを手で掴んで、箱の中に入れてくれる。  そうして平然として、自ら用意してくれていた、ダメになった餌の代わりを、糸の先に結んでくれた。  獲物が餌にかかるまでの間は、あれこれと話をして、その話題はザリガニにも及んだ。  とにかく、変わっている女の子だった。  そしてそれは、ぼくにとっては特別な女の子、というのと同義だった。 「どうしてザリガニは、自分の仲間の死肉に、次から次へと掴みかかるのかな?」  不思議そうに首を傾げながら、耳に髪をかける彼女。そうすると、首筋が視界に入って、すこしぼくはドキドキしてしまう。 「さあ? 美味しそうだからじゃないのかな」 「美味しそうだったら、なんでも食べようとしちゃうの?」 「……たぶん」 「じゃあわたしたちも、目の前に人間の肉をぶら下げられて、それでそれが美味しそうだったら、食べたいって思っちゃうのかな……?」  彼女は悲しそうな顔をしていた。 「そんなはずないよ。ぼくたちはザリガニとは違うし」 「そっか……よかった」  そうして笑う彼女は、やっぱりぼくには学校の他の子達とは違う存在に感じられた。 「きっと……あれだね、ザリガニさんたちは、ぶら下げられている仲間を助けようとして、それで掴んできているんだ。ね、そうじゃないかな、しーくん」 「うん、そうかもしれない」  不思議な考え方をする彼女は、ぼくにとっては不思議ではない。
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