第1章

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声をかけられて見上げたら松田さんと永瀬さんがいたんだ。 記憶喪失の僕の前に現れたのは、出版社に勤める親切なふたりだった。 世の中捨てたもんじゃない。記憶を失って蹲っていた僕に声をかけ、それからずっと面倒をみてくれてる。 あの時から新しく記憶されていく。 編集長始め松田さん、永瀬さん、他の社員の人達。みんな親切な人ばかりだ。 僕に名前を付けてくれた編集長。永瀬さんに先生と呼ばれる松田さん。仕事の出来るただ者ではない永瀬さん。あの時、編集部まで来てくれた警察官の柴田さんと小林さん。 今では、普通に僕を斉藤くんと呼ぶ。 どうして僕は、蹲っていたのか、どこに住んでいたのか、自分が誰なのかさえわからないけど、親切な人達に囲まれて、前を向いて歩いている。 松田さんがよく言うんだ。『焦るなよ。慌てなくていいよ。』って。 松田さんと永瀬さんが取材してる特集の題材が失踪者だと説明してくれた時のふたりの顔が、何とも可笑しくて。 タイミングが良いのか悪いのか、もしかしたら、僕も失踪者になっているのかなって言う僕を全力で励ましてくれるふたりには、どんなに感謝しても足りない。 編集長も松田さんも永瀬さんも僕を捜してる家族の事まで心配してくれてる。
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