林檎

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 訳あって探し物  スチールの物置の引き戸を引くと  少し黴臭いね  結構湿気があったみたい  残念ながら  探し物は見つからなかったけど  一番下の段の  左の一番奥の隅っこに  紙の袋に無造作に詰め込まれた  むかーし、昔の  笑ってしまうね  若かった頃の写真があったよ  残念だね  保存が良くなかった  写真と写真がくっついていて  ぺりぺり、ぺりぺり、めくりながら  一枚、一枚見ていった  ぐさーって、感じ?  笑ってしまうね  若かった君の写真があったよ  びっくりだね  突然胸を射抜かれてしまった  僕はその場に突っ伏してしまい  一粒涙が零れて落ちた  赤い長袖のワンピース  君の顔と手だけが白く  白く、白く透き通っていたんだ  物憂げに  海に向って佇んでいる  笑ってしまうね  カッコつけるなって  女優か、君は?  僕はそう言いながら、また  一粒涙が零れて落ちた  くっついてしまった写真を  ぺりぺり、ぺりぺり、めくりながら  一枚、一枚見ていたら  君の故郷の駅の写真が出てきたんだ  僕の鼓動が  早く早く、  大きく大きくなってゆく  ぺり、・・・  笑ってしまうね  僕はばかだろう?  お墓の写真  君のお墓の写真だよ  「ナンデ、ソンナシャシン?」  お墓の後ろの林檎の木に  落ちずに残った林檎の実  白い雪を冠って輝いていたよ  赤く、赤く透き通っていたんだ  林檎ってこんなにきれいなんだね  そう思って撮ったんだ  僕はばかだろう?  あれからもう、何年経った?  今でも目を瞑ったらね  はっきり見えるよ  だから、必要なかったんだ  この写真  「ホント、バカネ」  君はそう言いながら  物憂げに  海に向って佇んでいる  そして、一粒  涙が一粒零れて落ちた          
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