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最悪だ・・・この世の終わりです・・・
仏様・・・
ビッグ・ベンを見上げ颯爽と歩いていました。
気分はオーランド・ブルームなのです。
勿論、そう見えるように努力しています。
ブロンドヘアを身につけ、碧眼はコンタクトを使用、鼻だってつけました。
厚底の靴も履いています。
細身のスーツはセミオーダーで作りました。
黒のロングコートも忘れていません。
毎朝、紅茶風呂の入浴は欠かしません。
自他共に認めるオーランド・ブルームに変身し、街を颯爽と歩いているのです。
周りの視線、特に日本人観光客の視線を集めています。
何故なら日本人はオーランド・ブルームが大好きだからです。
彼こそ、イギリス人の中のイギリス人です。
あの学生でしょうか、すれ違いざま私を撮りました。
男性に撮られるのは初めてでしたが、悪い気はしません。
私は憧れる立場から憧れられる立場に変わった証なのです。
その時、風が吹きました。
強い風でした。
風が通り過ぎた直後、キャー! と悲鳴が聞こえました。
皆、私を見ています。
痛々しいものを見るような目です。
嫌な予感がします。
まさかとは思いましたが、考えるより早く頭を触っていました。
無いのです。
髪が無いのです。
大切な、大切な、ブロンドヘアが無いのです。
私のブロンドヘアはどこへ行ったのですか!
風下を見ると、先ほどの私を撮った日本人男性が慌てて何かを背中に隠したのがわかりました。
隠し間際、キラキラ光るものを私は見逃さなかった。
そこですね!
私のブロンドヘアを返しなさい。
目で訴えかけ続けました。
彼は恐る恐る、隠していたブロンドヘアを出しました。
私の大切な、髪……。
私の一部を取り戻すために、一歩踏み出すと、右目のカラーコンタクトがポロリと落ちました。
そんなもの気にしていられません。
鼻も落ちました。
だが足は止められません。
「見ーたーなー!」
彼の驚きの顔は今でも忘れられません。
今思うと、この出会いは運命だったのでしょう。
仏様のお導きだったのです。
これが彼こと伊奈有馬くんと私の出会いです。
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