第六章

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…閃いた!閃きましたよ私! 「待って、社長に電話するから。そのまま伝えるから言いたいこと言ってって」 外にも会話が聞こえるようにしてー。 『…もすもす?こはるん迷子?おっそぉーい』 「セッちゃん?」 受話器の向こう、息を飲む音が聞こえる。 『メア…?』 「セッちゃん、あのね」 メアさんは一生懸命に受話器に顔を近づけて、届かない声を伝える。 「チョコレート、美味しいね」 幽霊もきちんと年をとるんだな。18歳のメアさんは、とても大人びた顔で笑った。 「千野芽亜。18歳。嫌いなものは無し、好きなものはチョコレートと、とっても優しい親友です」 受話器の向こう、鼻をすする音が聞こえる。 『空にいろよ、ばか』 「セッちゃん泣き虫になったね」 『誰のせいだ、あほ』 「誰だろー」 二人はとても、仲良しだったんだなぁ。 『メア本当あほだべさ…名前、間違えとるよ』 「え?」 あれ、墓石には確かに千野芽亜って…。 『アンタの名前は、雨戸芽亜だべさ』 ふとメアさんを見ると、目を大きく開いたまま固まっていた。やっぱり私とメアさんは似てるな。嬉しすぎると、固まっちゃうんだよね。 「…そうだったね。いっぱい、いっぱい家族出来たもんね」 『メアの家族だべ、良い奴らばっかでしょ?』 「うん…うんっ!!」 何度も何度も頷くメアさんが、さっきより透けているのに気付いた。時計を見る。あと少しで今日が終わってしまう。 メアさんが消えちゃう。 「セッちゃん」 『なーに』 「好きだよ」 『いやん、照れる』 「セッちゃ…」 メアさんの言葉は続いていたけど、私は思わず止めてしまった。気付いたメアさんが、私と同じ方を見る。 「社長…」 息を切らした社長が、立っていた。 「メア!」 社長はしっかりとメアさんのほうを見ている。見えているのか。 「大好きだよ!!」 駆け寄るメアさん。けれど社長は気付かない。やっぱり見えないんだ。
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