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『セッちゃん!セッちゃんっ!!』
メアさんの声にも、気付かない。メアさんはどんどん透けて、もう私にもあまり見えない。
『セッちゃん!』
メアさんが社長に抱きつく。
すると。
社長が確かに、メアさんを抱き返した。
「ここに、いるんだね」
もうほとんど見えないメアさんが笑ったのが、微かに見える。声も聞こえなくなってしまった。それでも社長はしっかりメアさんを抱き締める。
「一生、家族だからね」
時計が動き、日付が変わる。
何も無くなったそこに、社長はいつまでも手を伸ばしていた。
「小春様!!」
「春…ってうわぁっ!」
全力で突進されたし。痛い。鼻が、ぐぁって、なりました。
「小春様!良かった!怪我は無いですか!?」
「今鼻打った」
うぅ…本当にド根性バカね。バカすぎる。
「お熱い抱擁ですこと。じゃ、アタイは先に行くね」
社長の背が小さくなっていく。その肩が震えた気がした。
大切な人に先立たれるのは、どんなに辛いのだろうか。
「春」
「はい?」
「私より先に死んだら怒るからね」
大切な人がもう二度と、現れることはない。その現実はどれだけ胸を傷めるのだろう。
春がいない世界。
そばにいないんじゃない。
どこにもいない世界。
同じ空を見上げることも、同じ空気を吸うことも、同じ月に見惚れることもない。
その世界は、とても辛い。けれどいつか必ず訪れる世界だ。
「小春様…?」
「私…もう家事なんか出来ないから…だから…」
抱き締める腕に力を込める。赤いジャージから香る優しい匂い。春の匂い。
私の命が消えるそのときは、こうしてこの香りと温もりに包まれ、眠るように逝きたい。
だから、だから春に先に死なれちゃ困る。
春の代わりなんかいないんだから。こんなド根性バカ他に、いないんだから。
「好きだからそばにいてほしいとか…そんなんじゃないんだからね」
「へへ、わかってますよ」
優しく頭が撫でられると、暖かな睡魔がやってきた。夜更かしは苦手だ。
「小春様の気持ちなんか、わかってます」
子供抱っこされ、ゆっくり目を閉じた。
「小春様が死ぬときはこうして、きちんと抱き締めていますから」
そして貴方の息が止まったその時、私も一緒に…
その続きは意識が消えて、聞くことができなかった。
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