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哲郎に、敵に手加減してやる余裕はない。
近づいてきたのを、片っ端から殴り飛ばしていく。
その乱雑な戦闘方法は、
攻撃をかわして相手の関節を外し、必要最小限のダメージで敵を戦闘不能にする、
いつもの哲郎の手腕とはかけ離れていた。
気がつくと、痛めた右腕側にトモキが回り込もうとするのが、どうにも気に入らない。
しかしトモキから離れ、右に注意を払っていると、左からの蹴りを突っ込まれ、息が詰まる。
脇から来たのに目をやると、逆から来たのに足をすくわれ、とっさに左手で受身を取った。
倒れたら、蹴りが来る。
その衝撃に備え、背中に力を入れたが、追撃は来ない。
顔をあげれば、トモキが、哲郎に蹴り込もうとした男の膝を、上から踏み潰していた。
「詰めが甘ぇんだよテツはよー」
トモキが、哲郎の正面に仁王立ちし、哲郎を見下して言う。
哲郎は膝を立てた。
「余計なことはするな」
哲郎の言葉に、トモキは怪訝な顔をする。
「おれのことは放っておけ」
トモキが、背後から襲いかかる敵を、振り返りもせずに、裏拳でぶっ飛ばした。
鼻頭に皺を寄せて、哲郎を睨みつける。
「あぁ、何言ってんだ?」
顔面にまともに裏拳を受けた敵は、鼻血をふきながら転がっていった。
哲郎は舌打ちした。
トモキの目を、まっすぐに見返すことができない。
「お前は爆音神の総長だろう」
哲郎のこめかみの血管が、ドクドクと脈打っている。
「トモキこそ、おれの後ろに引っ込んでろ。総長なら、チームのことだけを考えてろ」
トモキの特攻服に散る血の赤が、夕べ寝た、ルイの髪を思い起こさせた。
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