2 シグナル女 ルイ

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哲郎に、敵に手加減してやる余裕はない。 近づいてきたのを、片っ端から殴り飛ばしていく。 その乱雑な戦闘方法は、 攻撃をかわして相手の関節を外し、必要最小限のダメージで敵を戦闘不能にする、 いつもの哲郎の手腕とはかけ離れていた。 気がつくと、痛めた右腕側にトモキが回り込もうとするのが、どうにも気に入らない。 しかしトモキから離れ、右に注意を払っていると、左からの蹴りを突っ込まれ、息が詰まる。 脇から来たのに目をやると、逆から来たのに足をすくわれ、とっさに左手で受身を取った。 倒れたら、蹴りが来る。 その衝撃に備え、背中に力を入れたが、追撃は来ない。 顔をあげれば、トモキが、哲郎に蹴り込もうとした男の膝を、上から踏み潰していた。 「詰めが甘ぇんだよテツはよー」 トモキが、哲郎の正面に仁王立ちし、哲郎を見下して言う。 哲郎は膝を立てた。 「余計なことはするな」 哲郎の言葉に、トモキは怪訝な顔をする。 「おれのことは放っておけ」 トモキが、背後から襲いかかる敵を、振り返りもせずに、裏拳でぶっ飛ばした。 鼻頭に皺を寄せて、哲郎を睨みつける。 「あぁ、何言ってんだ?」 顔面にまともに裏拳を受けた敵は、鼻血をふきながら転がっていった。 哲郎は舌打ちした。 トモキの目を、まっすぐに見返すことができない。 「お前は爆音神の総長だろう」 哲郎のこめかみの血管が、ドクドクと脈打っている。 「トモキこそ、おれの後ろに引っ込んでろ。総長なら、チームのことだけを考えてろ」 トモキの特攻服に散る血の赤が、夕べ寝た、ルイの髪を思い起こさせた。
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