2 シグナル女 ルイ

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「テツローさん、テツローさん!」 切羽詰まったような、泣きそうな五十嵐の声に、ようやく我に返れば、 哲郎は、肩で息をしながら、その場に立ちつくしていた。 視界を塞ぐ血を乱暴に腕で拭って、累々と、苦痛の呻き声をあげる男たちを確認する。 倒れ伏した男たちの真ん中に、哲郎は立っていた。 腕や足を折られて、痙攣を起こしているのがいる。 意識がないのか、ピクリとも動かないのもいる。 哲郎の足元には、折れた歯が転がり、敵が流した、血と汚物の臭いが鼻についた。 すべてを、己が仕出かしたことだと悟り、少しだけ身ぶるいした。 トモキが『獣』なら、自分の中には、『鬼』がいる。 トモキはと見れば、壁に背中を預け、さっきと同じ姿勢のまま腕を組んで、黙って哲郎を見ていた。 結局トモキは、戦闘に加わらなかった。 哲郎の視線と出会えば、トモキはフラリと背中を起こす。 『鬼』の所業を目の当たりにして、『獣』は、何を感じたのだろう。 トモキの拳が、ゴキリと骨を鳴らした。
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