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「テツローさん、テツローさん!」
切羽詰まったような、泣きそうな五十嵐の声に、ようやく我に返れば、
哲郎は、肩で息をしながら、その場に立ちつくしていた。
視界を塞ぐ血を乱暴に腕で拭って、累々と、苦痛の呻き声をあげる男たちを確認する。
倒れ伏した男たちの真ん中に、哲郎は立っていた。
腕や足を折られて、痙攣を起こしているのがいる。
意識がないのか、ピクリとも動かないのもいる。
哲郎の足元には、折れた歯が転がり、敵が流した、血と汚物の臭いが鼻についた。
すべてを、己が仕出かしたことだと悟り、少しだけ身ぶるいした。
トモキが『獣』なら、自分の中には、『鬼』がいる。
トモキはと見れば、壁に背中を預け、さっきと同じ姿勢のまま腕を組んで、黙って哲郎を見ていた。
結局トモキは、戦闘に加わらなかった。
哲郎の視線と出会えば、トモキはフラリと背中を起こす。
『鬼』の所業を目の当たりにして、『獣』は、何を感じたのだろう。
トモキの拳が、ゴキリと骨を鳴らした。
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