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3 狂乱虎兎 羽月
狂乱虎兎との奇縁で、ルイはリーダーの羽月が、ひとりで行く店を知っていると言った。
「すぐにでもテツロウを案内できるわ」
そう言われると、安易すぎる気がしたが、
「もしかして、テツロウが動くのに、トモキの許可がいるの?」
ルイの煽りに、頬が紅潮した。
ルイに案内されて出向いた店は、地下のショットバーだ。
豪奢なつくりも落ちついて、とてもストリートギャングが出入りする店だとは思えない。
入り口から店内を覗えば、
「あれが羽月よ」
ルイが小声で教えた。
視線の先には、銀のパンツに白いジャケットの男。
シルバーアクセサリーを揺らした、ホストまがいのやさ男が、スツールに腰掛けている。
「ヒャハハハ!」
女のように笑い、バーテンダーと談笑していた。
店内には、他に20人ばかりの客がいたが、皆てんでに過ごしていて、
羽月に注目している者も、
『白』を目立つ形で身につけている者もいない。
哲郎の警戒を察したのか、ルイが、
「大丈夫。羽月は女としか、この店には来ないの。今夜は女もいないから、きっとひとりよ」
赤い唇を歪めて笑った。
ルイに臆病だと貶されたようで、哲郎は、己の中の不安を否定した。
臆病者のつもりはない。
哲郎はゆっくりと店内を歩き、羽月の肩に手を置く。
「狂乱虎兎の羽月か? ちょっと付き合ってもらおう」
その時、店の椅子が音をたてて鳴り、そこにいた全員が一斉に立ち上がった。
他にも、薄暗いバックヤードからバラバラと人間が走り出てくる。
「ヒャハハハ!」
哲郎を振り返った羽月が、笑い声をあげる。
哲郎を囲んだ男たちは、服のポケットからナイフを取り出し、容赦なく獲物に突きつけた。
「ようこそ狂い兎の巣へ。バクオンの鬼の副長どの」
やはり、話がうますぎた。
これは、
――罠だ。
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