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トモキのパンチは何とかかわしたが、かすっただけで頬が焦げるような衝撃が走る。
捕まえれば、力づくで押さえ込むことが出来るが、獣を前に、捕獲作戦を練っている時間はない。
戦闘のたぎる血のままに、トモキの拳が、今度は肘となって、哲郎の顔面に戻ってきた。
間一髪、頭を下げて避ける。
肘の次は蹴り。
哲郎は両腕を前で組んで受けた。
――ガッ。
哲郎の体がズレる。
この人間離れしたパワーは、トモキの最大の武器だ。
腕は犠牲になったが、なんとか、トモキの動きを止められた。
その隙を逃さず、
「落ちつけ」
なだめる。
しかしトモキは、
「うっせーんだよっ!」
続けて殴りかかってきた。
今度は間違いなく、相手を哲郎だとわかっての攻撃だ。
まともに喰らえば、顎を直撃する急所狙いのパンチを、哲郎は腕で軌道を変えていなす。
するどい踏み込みで、頭がぶつかるほどの至近距離まで迫ったトモキは、
獣の目をして、哲郎を睨みつけてきた。
トモキの牙が剥き出しになり、今にも哲郎の喉笛を喰い千切りそうだ。
トモキは、低く唸り声をあげた。
「――おれに逆らうな」
「……」
「いい加減、おれに従えテツ」
哲郎が、トモキに逆らった覚えなどない。
ただ配下として、膝を折らないだけだ。
「おれは……」
哲郎が言い淀んでいると、五十嵐が慌てたように駆け寄ってきた。
「トモキさん、テツローさん、何やってんですかっ!」
その声を聞いて、トモキはしぶしぶ拳を下げる。
「……つまんねー」
吐き捨てるように呟き、
「もう少し走る。付き合え橋元」
そう言って、ゼファーにまたがり、公道に飛び出していった。
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