1 獣の王 トモキ

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トモキのパンチは何とかかわしたが、かすっただけで頬が焦げるような衝撃が走る。 捕まえれば、力づくで押さえ込むことが出来るが、獣を前に、捕獲作戦を練っている時間はない。 戦闘のたぎる血のままに、トモキの拳が、今度は肘となって、哲郎の顔面に戻ってきた。 間一髪、頭を下げて避ける。 肘の次は蹴り。 哲郎は両腕を前で組んで受けた。 ――ガッ。 哲郎の体がズレる。 この人間離れしたパワーは、トモキの最大の武器だ。 腕は犠牲になったが、なんとか、トモキの動きを止められた。 その隙を逃さず、 「落ちつけ」 なだめる。 しかしトモキは、 「うっせーんだよっ!」 続けて殴りかかってきた。 今度は間違いなく、相手を哲郎だとわかっての攻撃だ。 まともに喰らえば、顎を直撃する急所狙いのパンチを、哲郎は腕で軌道を変えていなす。 するどい踏み込みで、頭がぶつかるほどの至近距離まで迫ったトモキは、 獣の目をして、哲郎を睨みつけてきた。 トモキの牙が剥き出しになり、今にも哲郎の喉笛を喰い千切りそうだ。 トモキは、低く唸り声をあげた。 「――おれに逆らうな」 「……」 「いい加減、おれに従えテツ」 哲郎が、トモキに逆らった覚えなどない。 ただ配下として、膝を折らないだけだ。 「おれは……」 哲郎が言い淀んでいると、五十嵐が慌てたように駆け寄ってきた。 「トモキさん、テツローさん、何やってんですかっ!」 その声を聞いて、トモキはしぶしぶ拳を下げる。 「……つまんねー」 吐き捨てるように呟き、 「もう少し走る。付き合え橋元」 そう言って、ゼファーにまたがり、公道に飛び出していった。
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