第2章 マーティン・ルーサー・キングJr.デー

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「あんたたちゲイなの?」 すっかりアンの存在を無視する形になっていたふたりに、アンは良く透る高い声でそう聞いた。 とたんに突き刺さる、周囲の視線が痛い。 額に手をやる哲郎とは対照的に、トモキはまったく意に介さず、 「おい、お前、腹へらねーか?」 とアンに話しかけた。 昼にはまだ少し時間があるが、トモキはどうせ朝食抜きなのだろう。 混む時間に並ぶよりは、今の方がいくらかマシだろうと、哲郎にも異存はない。 だがアンは、プクリと頬を膨らませると、 「その『お前』ってのはやめてよね」 と口をとがらせた。 「私はアン。短いんだから、名前で呼んでよ」 アンはトモキを睨みながらジリッと詰め寄っていく。 アンの名前は、とっくにトモキに教えてあるが、しかしトモキは、 「ぜってー、名前でなんか呼んでやらねー」 と言ってニカッと笑うのだ。 「なんでよ、失礼な男ねっ」 アンはぷりぷりと怒るけれど、こればかりはアンの責任じゃない。 違うところに問題がある。 実際、哲郎だって、その名を舌に乗せるのが少しだけ苦しくて、なるべく呼びかけないですむ方法を探しているのだ。 「名前なんかどーでもいいじゃねーか。メシ行こうぜ、メシ」 トモキはせっかく並んだ行列を、いきなり逆走し始め、哲郎も自分たちの後をついて不自然な動きをするその影の、人数と姿を確認した。
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