13人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたたちゲイなの?」
すっかりアンの存在を無視する形になっていたふたりに、アンは良く透る高い声でそう聞いた。
とたんに突き刺さる、周囲の視線が痛い。
額に手をやる哲郎とは対照的に、トモキはまったく意に介さず、
「おい、お前、腹へらねーか?」
とアンに話しかけた。
昼にはまだ少し時間があるが、トモキはどうせ朝食抜きなのだろう。
混む時間に並ぶよりは、今の方がいくらかマシだろうと、哲郎にも異存はない。
だがアンは、プクリと頬を膨らませると、
「その『お前』ってのはやめてよね」
と口をとがらせた。
「私はアン。短いんだから、名前で呼んでよ」
アンはトモキを睨みながらジリッと詰め寄っていく。
アンの名前は、とっくにトモキに教えてあるが、しかしトモキは、
「ぜってー、名前でなんか呼んでやらねー」
と言ってニカッと笑うのだ。
「なんでよ、失礼な男ねっ」
アンはぷりぷりと怒るけれど、こればかりはアンの責任じゃない。
違うところに問題がある。
実際、哲郎だって、その名を舌に乗せるのが少しだけ苦しくて、なるべく呼びかけないですむ方法を探しているのだ。
「名前なんかどーでもいいじゃねーか。メシ行こうぜ、メシ」
トモキはせっかく並んだ行列を、いきなり逆走し始め、哲郎も自分たちの後をついて不自然な動きをするその影の、人数と姿を確認した。
最初のコメントを投稿しよう!