第5章 独立記念日

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アンの聞こえないところで、噂話は続いていく。 先ほどの問いを口にした、ミナミに向かって、幸一が答えた。 「当たり前だろ。トモキさんのオンナ以外の誰に、『守れ』だなんて絶対命令がおりるんだよ」 「なんだお前、知らないのか?」 怪訝な顔をするミナミに、卓也は何故か自慢そうに教えた。 「そもそもバクオンには、設立当初から絶対命令はひとつしか無いんだよ」 知っているらしい幸一が、卓也の隣でうなずいている。 なんだなんだと、他のメンバーも集まってきた。 「集会だって抗争だって、トモキさんは絶対命令なんか下さないんだ」 「なんだよそれ? ついこの間だって、あの『阿修羅』と、ものすっげぇ抗争があったじゃねーか。 そん時には50人の幹部連の他にも100人近いメンバーが参戦して、それこそ伝説になるようなパレードだってあったじゃねえか」 「ああ、そうだ。単車を持ってねーおれたちは、見てるだけで悔しかったよな」 卓也は拳を握って唇を噛む。 「だけどアレも、別にトモキさんが絶対命令で集合をかけたわけじゃねー。抗争の話を聞いて、トモキさんに心酔するメンバーが自主的に集まったんだ」 我慢できなくなったらしい幸一が後を引き取る。 「そうでもなきゃ、相手はあの『阿修羅』だぜ。藤村を前にして、いざとなったらビビって尻尾まいて逃げ出すようなやつなら、トモキさんは最初から相手にしねーんだよ」 「マジでか? 命令も下さねーで、トモキさんはあれだけの数の男たちを集められるのか?」 卓也と幸一は、メンバーに向かって、ふたりしてビッと親指をたてた。
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