第5章 独立記念日

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「ヤッベェ」 トモキはつぶやいて、外に背中を向け、壁の陰に隠れる。 哲郎も身を沈めた。 すぐにここを出なければ……。 もしも、こんな狭い場所で追い詰められたら、最悪、逃げ道がない。 だが男は、ふっと頬を緩めると、また顔を正面に戻し、何事もなかったかのように三門をくぐって、境内へと歩いていった。 「気のせい、だったか?」 トモキは哲郎に聞いた。 哲郎は、 「……いや」 と首を振る。 考えられるのは、 「おれたちに、逃げ出すチャンスをくれたんだろう」 敵から情けをかけられたという悔しい現実。 「……ふざけやがって」 トモキは泡を吹くように言うが、それでも激情にまかせて後を追っていかないのは、黒いスーツの男の底知れない実力を感じたからだ。 だが、あの男の向かう先には、アンがいる。 「テツ、おめー肩は?」 トモキが聞くので、哲郎は、 「大丈夫だ。血も止まった」 と答えた。 ただしこれは、動かさないでいるという条件の上での話だから、いざ戦闘になったら、どうなるかわからない。 しかしトモキは、小さくうなずくと、 「じゃいくぞ」 と、覚悟を決めたように言って立ち上がった。
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