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「ヤッベェ」
トモキはつぶやいて、外に背中を向け、壁の陰に隠れる。
哲郎も身を沈めた。
すぐにここを出なければ……。
もしも、こんな狭い場所で追い詰められたら、最悪、逃げ道がない。
だが男は、ふっと頬を緩めると、また顔を正面に戻し、何事もなかったかのように三門をくぐって、境内へと歩いていった。
「気のせい、だったか?」
トモキは哲郎に聞いた。
哲郎は、
「……いや」
と首を振る。
考えられるのは、
「おれたちに、逃げ出すチャンスをくれたんだろう」
敵から情けをかけられたという悔しい現実。
「……ふざけやがって」
トモキは泡を吹くように言うが、それでも激情にまかせて後を追っていかないのは、黒いスーツの男の底知れない実力を感じたからだ。
だが、あの男の向かう先には、アンがいる。
「テツ、おめー肩は?」
トモキが聞くので、哲郎は、
「大丈夫だ。血も止まった」
と答えた。
ただしこれは、動かさないでいるという条件の上での話だから、いざ戦闘になったら、どうなるかわからない。
しかしトモキは、小さくうなずくと、
「じゃいくぞ」
と、覚悟を決めたように言って立ち上がった。
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