第一章 ニューイヤーズデー

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バイクをとめてある『爆音神』のたまり場まで歩く予定だった。 自宅にバイクを置いておくと、門弟に勝手に乗り回される。 トモキもそれを経験しているので、哲郎の自宅『求道館』には、自分の大事な愛車を近づけない。 トモキにしたら初めてであろう、チカラで敵わない、しかもトモキ以上に我がままな人間が、ここにはゴロゴロといるのだ。 ところが、王女が唇を尖らせた。 「歩きたくありません」 「あぁ?」 トモキは今日一日、何度この返事をすることになるのだろう。 そして哲郎も、何度頭を抱えなければいけないのか。 「私は、行き先もわからない場所まで歩いたことはありません」 父親の車を無断借用すれば、きっと今夜は血を見る羽目になる。 残った足は……。 哲郎は、昭和の遺物のような頑丈なだけが取り柄の自転車を、裏の倉庫から引っ張り出してきた。 トモキは腹を抱えて大笑いしている。 あまりに腹が立つので、哲郎はトモキを無視して、王女に話しかけた。 「お前、その格好で大丈夫か?」 王女の名に恥じない清楚なワンピースにコート姿。 うかつだった。 たとえバイクまで歩いてくれても、タンデムシートに乗せられやしない。 トモキを寒風吹きすさぶ外に待たせたまま、一度、室内にとって返し、母親に頼んで、もう少しカジュアルな服装に着替えさせてもらった。 長袖Tシャツにジーンズにスニーカー。バイク用のダウンジャケットと手袋。 王女自身は気に入らないらしく膨れているが、哲郎はようやくマシになったと息をついた。 「もう少し気を抜いてしゃべれ。おれたちに敬語を使う必要もない」 哲郎が言うと、王女はちょっとびっくりした顔をして、そして少し赤くなってコクリと頷いた。
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