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バイクをとめてある『爆音神』のたまり場まで歩く予定だった。
自宅にバイクを置いておくと、門弟に勝手に乗り回される。
トモキもそれを経験しているので、哲郎の自宅『求道館』には、自分の大事な愛車を近づけない。
トモキにしたら初めてであろう、チカラで敵わない、しかもトモキ以上に我がままな人間が、ここにはゴロゴロといるのだ。
ところが、王女が唇を尖らせた。
「歩きたくありません」
「あぁ?」
トモキは今日一日、何度この返事をすることになるのだろう。
そして哲郎も、何度頭を抱えなければいけないのか。
「私は、行き先もわからない場所まで歩いたことはありません」
父親の車を無断借用すれば、きっと今夜は血を見る羽目になる。
残った足は……。
哲郎は、昭和の遺物のような頑丈なだけが取り柄の自転車を、裏の倉庫から引っ張り出してきた。
トモキは腹を抱えて大笑いしている。
あまりに腹が立つので、哲郎はトモキを無視して、王女に話しかけた。
「お前、その格好で大丈夫か?」
王女の名に恥じない清楚なワンピースにコート姿。
うかつだった。
たとえバイクまで歩いてくれても、タンデムシートに乗せられやしない。
トモキを寒風吹きすさぶ外に待たせたまま、一度、室内にとって返し、母親に頼んで、もう少しカジュアルな服装に着替えさせてもらった。
長袖Tシャツにジーンズにスニーカー。バイク用のダウンジャケットと手袋。
王女自身は気に入らないらしく膨れているが、哲郎はようやくマシになったと息をついた。
「もう少し気を抜いてしゃべれ。おれたちに敬語を使う必要もない」
哲郎が言うと、王女はちょっとびっくりした顔をして、そして少し赤くなってコクリと頷いた。
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