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スタンドをかけたままの背の高い自転車の後ろに、王女の脇を抱いて座らせる。
「なっ……」
絶句する王女にかまわず、トモキに、
「お前が漕ぐか?」
と聞くと、
「ふざけんな」
と毒づくので、
「そうか」
と答えて、一気にスタンドを蹴って、サドルにまたがり、ペダルを漕ぎだしだ。
「このクソバカ! テツおめー、なに先行ってんだよ! 待てよコラアッ!」
トモキが必死の形相で走って追いかけてくるのを見て、ようやく哲郎の溜飲も下がる。
「Hyaaaaa!」
悲鳴は万国共通なのか、えらく不格好な声をあげ、王女が後ろで振り落とされそうになっている。
哲郎は、右手を伸ばして王女の腕を捕まえ、それを自分の腰の辺りに導いてやりながら問うた。
「お前、名前は?」
王女は、
「Hyaaa……a。……アン」
と答えた。
哲郎は、その名にちょっと驚いたが、
「そうか」
とだけ短く返事をした。
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