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第一章 ニューイヤーズデー
道着の前襟を取られたと思ったら、握り込んだ拳が、勢いを殺さないまま、哲郎の顎をかち上げた。
とっさに顎をひいて脳みそを揺さぶられるのは避けたが、固い拳の一撃に思わず顔をしかめる。
相変わらず、えげつない手を使ってくる。
すかさず踏み込んでくる相手の足に、ローキックと見まごうばかりの足払いをくらわせ、片襟をつかんで追い打ちをかけた。
釣り手が切れたと思ったが、
違う、
これは自分ではずしたのだ。
『しまった!』
と思う間もなく、襟をつかんだ腕が相手の両腕に巻きこまれ、ねじるように板張りの床に転がされた。
――腕返し。
身体を丸めて腕への関節技は避けたが、すかさず袈裟固めで抑え込んでこようとする。
そんなもの極められてたまるかと、奥襟を狙えば、手固めの腕ひしぎに移行された。
哲郎は一瞬、ゾワリとした寒気を感じさせられて……。
だが相手は、すっと哲郎から身体を離した。
余裕の表情で身を起こす。
ここ『求道館』の関節技は、極めたら折る。
今、哲郎の腕は無事だから、つまりは手加減されたわけだ。
「……何を企んでいやがる」
哲郎は唇を噛んだ。
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