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かつてのその日は夢のように楽しかった、二人の大切な思い出の一つだ。
ローファーの靴底がアスファルトに擦れる音が風に溶ける。少し遠くからテトラポッドにぶつかる波の音がコンクリートに反響する。
干竿市。山と海に囲まれた小さな漁師町は今日も恐ろしいほど平和だ。
また数人の学生が自転車で横を通り過ぎる。その中にはクラスメイトがいたので二人はまたね、と手を振る。遠回りなのに比較的自転車の生徒が通るのはこの道が一番ストレスなく通れる道だからだろう。
学校から北側へ帰る生徒は大まかには道が三つある。山沿いの道、国道沿いの道、そして今二人が通っている海沿いの道。どの道でも登校時は大なり小なり上りがある。山沿いの道はかなりうねっているので、一番の遠回りだ、帰りは序盤以外はほぼ若干の下りなので、だいぶ楽だが登校時はずっと上りになるのでかなり辛い。国道の道は一番早く、一番なだらだが、幅が狭い。場所によっては二人で並んで歩けば自転車で脇は抜けられない。それに歩くに少し向かないのが、この道は必ずトンネルを通らなくてはいけない。
残りの海沿いの道は登校時、学校の近くにかなりきつい坂があるが、帰りは下って後はほぼずっと平坦な道が続く。この道は学校から出てしばらくの間ほぼ車が通らないので、自転車も道をめいっぱい使って走れるのだ。
海の真横まで来たがまだ海が見えることはない。2.5メートルほどのコンクリートの壁がある。壁はカモメのフンで所々白く染まっている。もう少し行って、船着き場の手前までいかなくては海は望めない。
聞こえるのはテトラポッドにぶつかる波の音と、カモメの鳴き声。少し遠くから板金屋の金属を電動鋸で切るときの甲高い音。日によってはテトラポッドで釣りをしている人の竿のリールが回る音。
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