胡蝶の夢

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 波の音とともに風が吹き二人の髪をなびかせる。百合は半袖の制服から出た白くて細い手で髪を抑える。 「今日も暑いなぁ」  沈みかける太陽を細目で眺めながら百合が呟く。 「日が沈めばマシになるよ、少し急いで早めに帰ろっか」  紫苑がそう言って百合を見る。 「紫苑さ、髪長くて暑くないの?」  自身はショートボブの百合が、腰まである紫苑の長い髪を上から下まで見回して聞いた。 「うーん...パパがね、昔のお母さんみたいで綺麗だって言ってくれたの」  そう言われると百合は言葉に詰まり、会話はそこで途切れた。かといって今更沈黙が気になる仲でもないため、そのまま二人は歩き続けた。  船着き場の脇を抜けるとこの道の上を横切るように国道があり、すぐ近くにトンネルがある。その手前の階段を上ると国道に出る。国道の下を通り抜ける所で百合が「ねえ、久々に浜辺公園に寄ろうよ」と右の道を指差した。ここで右に曲がると公園があり、春には桜がみられる。昔は遊具が沢山あったがいつの間にか一つまた一つと減っていた。理由は知らないが、大方全国でよくある子供の怪我防止のためだろう。二人が小学生の頃は、毎日のようにこの公園で遊んだが、中学生になるころには理由もないが、自然と行くことがなくなり、家から歩いて数分の公園は、見るたび別の場所のように感じる事があった。その公園も二人が高校生になる頃には、遊具は滑り台とブランコだけになっており、後は誰も使わない円柱を横にしたようなコンクリートで四角く囲まれた硬い砂場、二人が座れるほどのベンチが二つ、後はだれも使わない古い公衆トイレがあるのみ。  二人の手が離れる。 「またちょっと遠回りだよ」  紫苑はそういうも、百合はすでに公園へ歩を進めているので、彼女もその後ろへついて歩く。道のはじめは四階建てのアパートの影になる。影の中頃で百合の横へ追いついて「公園でなにかするの?」と肩にかけていたカバンをかけなおす。カバンに着けている百合とおそろいのキーホルダーがいくつも大きく揺れカシャンと小さく音がした。 「別に何があるわけでもないけどさ、久々に来るとこんなだったかぁって思うよね」  公園は桜の木がいくつもあり、木陰になってとても涼しい。ただ蝉の声と、急な斜面の上が国道になっているため少々騒がしい。
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