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公園についてみると紫苑も少し驚いた。百合の言った通り久々に来てみると随分印象が違う。二人は同じベンチに腰掛けるが、ベンチが小さく感じる。公園の入り口以外を囲っている、こげ茶色の柵も背が伸びたからか、昔ほどの圧迫感がない。だが今は公園自体が狭く感じる。
あんなに自由に公園中を駆け回っていたのに。今では追いかけっこをするには随分狭いだろう。ベンチの背にもたれかかり、カバンから小さめの白い水筒を出す。中は麦茶、お腹を冷やさないよう氷はあまり入れない。二人の学校は昼に売店で、パンやおにぎりなど食べ物は買えるが、数に限りがあるので基本はみんなお弁当で、学校に飲み物の自動販売機もあるのだが、利用する生徒は少ない。水筒を持参するのがほとんどだ。水筒の蓋を回して開け、麦茶の二口目を口に含んだところで百合が顔をのぞかせ「一口ちょうだい」と言った。
汗で湿った髪が何本か顔にくっついたままだ。
「自分の全部飲んじゃったの?」
「今日は暑かったから~」
「昨日もそんなこと言ってなかった?」
「そうだっけ」
「そうだよ」
そんなやり取りがあったが水筒は百合へ渡る。水筒を受け取り一口。ありがと、と一声。水筒が再び紫苑へ帰る。今度は逆方向に蓋を回し、口を閉めると水筒はカバンへしまわれた。
二人は立ち上がり、スカートの後ろ側を何度か叩き再び歩き始める。
「いやぁ、夏だね」
百合が欠伸をしながら呟いた。
「なにそれ」
分かっていることを、あえて口にした百合を笑った。
「いやぁ、夏だな!って思って」
「分かってるって」
何故かくだらないやり取りで、笑いながら再び歩き始める。
二人の家はもうすぐ傍だ。公園を出てタバコ屋の前を通る。
タバコ屋といってもタバコだけでなく駄菓子や飲み物、アイス、干物など様々だ。
百合が先ほどの話を蒸し返すように「でもさ、夏・夏っていってるけど私たちまだ17回しか夏を体験してないんだよ」そう言ってまた紫苑の顔を覗き込む。「それもそうだね」と返事をしたところで家の前まで到着した。遠回りとは言ったが、公園は家から目と鼻の先で、すぐに家まで着いてしまった。
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