第1章

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「どう? そろそろ疲れたんじゃない?」  窓の外の重力加速度。騒音にも似た誰かの吐き気。物理を無視した立方体。  電子タブレットから私に目線を移し、落ち着いたトーン、落ち着いた瞳孔、落ち着いた表情、落ち着いた黒髪、落ち着きのない私の高揚感で、彼女は微笑んだ。 「まだまだ。この世の終わりには遠いさ」 「さっきからさ。この世とはこう、だとか。世界とはこう、だとか。勝敗とはこう、だとか。私、飽きちゃった。結局は、何かを定義して、ルールを定めて、自分で納得したいだけじゃないの? ヘッドフォンは宙を舞わないし、窓の外に重力加速度はないのよ。自分にとって理解できない何かを放っておくのが、怖いだけなんじゃないの?」 「それは、今の発言をした瞬間から、君も同じだろう? 僕を定義したがっている」 「そうね。でも、私は、私にとっての『あなた学』はこれにて完結でもいいわ」 ――だって、敗者の哲学に興味はないもの。
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