第1章

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 「最悪だ…この世の終わりだ…」からはじまる物語を書こう。と、した私の手が止まる。キーボードの「S」に左中指を置いたまま、ふと考えてみた。  私が想像し創造しようとしている、彼にとっての最悪とは、この世が終焉を迎えた場合に匹敵するほどの出来事という定義でよかったのだろうか。  そもそも、最も悪いと書き、モストバッドと直訳した先にある「最悪」という言葉だが、はたして、悪の反対はいつだって正義なのだろうか。  勝てば官軍、負ければ賊軍とはよく言ったものだ。  弱肉強食から始まったこの惑星の歴史上、勝者がいつだって歴史を刻み、敗者はいつまで経っても、歴史の塗り替えられる側にいる。  彼は何に負けた? 競技? 受験? 恋愛? 賭け事? この世界?   言葉を羅列すると、その総数に比例して自分という存在を取り囲む空間が狭くなっているように感じ、結局は丸めて、くしゃっと潰して、ゴミ箱に捨てる。  1人の人間にとってのこの世とは、生きている間に見えている世界に他ならない。  縄文時代に世界を見てきた人は縄文時代をこの世と称し、24世紀に生きていた人も24世紀をこの世とみる。  この世の終わり。彼にとっての歴史の終わり。  つまり彼は今、死という感情を、生きたまま実感している。そう、結論づけた。  彼は今、命を賭した何かに敗北したところなのだろう。  では、逆説的に、彼に勝った誰かは今、どんな感情が。  「最高だ…この世の始まりだ…」から始まる物語があってもこの世は始まらないし、この世も終わらない。  だが、勝者である彼にとって、いや、2人の彼ではややこしくなってしまう。今回は彼女としよう。  彼女にとっては、彼女の中で超新星爆発に匹敵する何かが起こった。
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