序章 失われた歴史、そして胎動する影

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 世界の歴史。  それは人間の記憶や推論から形成され、後世へと伝えられた物。  だが、紡がれ続けた歴史の中には極一部の人間にしか紡がれなかった【空白の時代】が存在する。  その時代、人々は一人一人に備わった【異能の力】を使い栄光を欲しいままにし、繁栄の極みへ当然の様に君臨していた。  ーーしかし、そんな時代は長くは続かなかった。  何故なら過ぎた力は強い欲望を生み、傲慢は争いを生んだからだ。  繰り返される大戦。  血と屍が大地を覆い、他人に対する巨大な猜疑心と絶望は瞬く間に蔓延した。  男も女も子供であっても異能という対等な立場から信用や愛は踏みにじられ、明るく笑う者等1人も居なかった。  そんな滅びの一途を辿る中、人々は切に願った。  『異能力など無ければ良かったのに…………』と。  そんな折、【一人の少女】がこの忌まわしい時代を終わらせた。  彼女の異能は【動作忘却】(アクト・キャンセラー)と呼ばれる掴むから果ては呼吸に至るまでの【あらゆる動作を忘れさせる力】。  彼女はその異能を使い人々の願いを叶えたのだ。  【異能の使い方の忘却】。  そう、戦いに疲弊しきっていた人々は彼女へと群がり異能を自ら放棄したのだ。  少女は限られた生涯の全ての時間を使って平和を願う人間から異能を奪い去った。  こうして人類は再び皆が皆を愛し争いを放棄したのだった。  ーーそして時を超えた現在。  異能の代用として高い知能と技術力で再び繁栄した知られざる歴史を知らない人類はある程度の平穏とある程度の秩序を手に入れた。  だが、その平和の影で【空白の時代】(ロスト・ヒストリー)の遺物が動きだそうとしていた。
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