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海外製だと聞かされている箪笥は、内側も安っぽいベニヤではなく、少し艶のある綺麗な木板が張られているのだけれど、木目の境に亀裂が入り、私が収めた洗濯物の一枚を飲み込もうとしていたのだ。
不思議と叫び声の一つも出なかった。その代わり、反射で飲まれそうになりシャツを引っ張った。
かなり強い力で吸い込まれようとしている。でも、たとえTシャツ一枚でも渡したくない。負けたくない。
そんな思いで引っ張り続けると、ふいに手元が軽くなった。相手…この場合、相手は箪笥ということでいいのかな。ともかく、箪笥がシャツを放したのだ。
尻もちをつきかけよろけたところへ、何やらあれこれと降ってきた。衣服に小物、ノートの類まで…間違いない。全部寮に来てからなくしたと思っていた物だ。
全部、この箪笥が?
おそるおそる木目を見つめてみたけれど、もうそこにさっき見た亀裂はなかった。
その後、私は箪笥から総ての私物を取り出し、寮母さんにこの件を話した。当然ながら寮母さんは、こんな妙な話を信じてくれはしなかったけれど、私が箪笥を取り替えたいという気持ちは判ってくれて、すぐに備え付けの箪笥を引き取ってくれた。
あれ以来、私の部屋から物が消えることはなくなったので、景観的には劣るけれど、急遽購入した安めの箪笥が『普通の箪笥』であることを噛み締めながら寮生活送っている。
ただ、来月新しく寮に入る子がいるんだけど、どうやらその部屋にあの箪笥は備え付けられるらしい。
寮母さんはオカルト話を信じてないから、当然といえば当然なんだろうけれど…。
その子が寮に来た後、もし私と同じような状態になったら、箪笥のことを話してみようと思っている。
備え付け家具…完
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