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プリン事変
「きみは狭量なやつだな」と彼は言った。苦々しい顔をして吐き捨てた。大袈裟な言い方をするのは彼の癖だった。しかし、これはそのような言葉で片付けてしまっていいようなことではない。彼はわたしが大切にしていたプリン、一日十個限定の、早朝から並んでやっと手に入れたプリンを勝手に食べていたのだ……!普段は温厚なわたしでも怒らずにはいられまい。
「ごめん、ごめんって。まあ、プリンもきみみたいに心が狭いやつに食べられなくて、喜んでるだろうさ」
ーー一言多い。わたしの顔を見て、彼は手を広げおどけたように笑ってみせる。わたしは彼に人差し指を突きつけた。
「ならばよい。聖戦の始まりだ……!!我が正義の鉄槌を、貴様に下してやろう」
「フハハハハ、受けてしんぜようではないか。きみの言う正義とやらを打ち砕いてみせよう」
戦いは、三日三晩続いた。わたしは膝をついていた。彼は笑いながら、銃(おもちゃ)をわたしの頭に突きつける。
「この戦いはぼくが制した。きみは降伏するがいい」
わたしは唇を噛んだ。血が滲んだ。悔しい、悔しい、くやしい。すると、俯くわたしの頬に冷たい感触。
「ほら、プリン。きみが眠っている間に買っておいたんだ。勝手に食べて悪かったな」
顔を上げると、彼は歯を見せながら笑っていた。力が抜けた。いつだって彼はそうなのだ。いつも優しくて、負けを認められないわたしは子供で。なんて狭量だ。
「まあ、許してやってもよいぞ」
わたしの大人気ない言葉に彼は柔らかに笑った。カーテンが揺れて、春の暖かい日差しが窓から差し込んでいた。
テーマ「狭量」
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