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それからも僕はなんとか霞ちゃんの力になりたいと色々な物を運んだ。
何度か食べ物を運んでいて気づいたことは霞ちゃんは匂いの強いものは苦手。
というか僕らが好んで食べるものは苦手らしい。
僕の記憶が曖昧で舌もこのところ片方が麻痺してきたような気がして、歯も昨日二本抜け落ちたし、味覚というものがわからなくなっている。
だからあげるのは缶詰だけにした。
キッチンの床収納にそれはあるので、僕は床に這いずりながら床収納を開く取っ手に指を引っ掛けた。
勢いよく開けようとしてその拍子に左の中指がもげてしまった。
あらら……。
困った僕は菜箸を持ってきて、それを引っ掛けなんとか開き、奥で眠っていた缶詰をみつけた。カラの布リュックにそれらを詰めて、両肩に背負う。
それを霞ちゃんの家の玄関まで運んで置いた。僕はあえて玄関のドアは叩かず、その日はそのまま帰った。二階の窓からそっと様子を見たかったからだ。
二階の窓を全開にして縁に寄りかかる。そうやって彼女が出てくるのを気長に待っている。
この時間がなんとも幸せな気持ちだった。
そうこうしているうちに眠気が襲いかかってきて意識が遠のいてきた。
リン……リン……。ああ、あの鈴の音だ……。
……マサオくん? あなたはマサオくんなの……?
遠くで微かに可愛らしくも、か細い声が聞こえる。
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