1人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんなに美味しいピザなら霞ちゃん喜んでくれるかな」
僕は自分が食べたいのを我慢してピザの箱を片手で持ち、霞ちゃんの家に向かった。たぶん物資も運ばれてこなくなったここで彼女はお腹をすかせているはずだ。
箱はだいぶ壊れかけていてピザ屋のロゴ印刷も薄れている。
僕は中身が落ちないように何度も注意しながら運んだ。
霞ちゃん、霞ちゃん。
僕は彼女の家の玄関下にピザをドカンと置くと、戸を叩きそのまま直ぐに物陰に隠れた。
玄関のガラスの引き戸に影が見え、戸が開く。
チリンと鈴の音が聞こえ、そこから白い手と顔が見えた。姿は夏の服装で肩にブランケットを羽織っている。
可愛らしいつぶらな瞳の霞ちゃんが、まるで怯えた小動物みたいに目をクリクリとさせ恐る恐るそっと外を覗いている。
霞ちゃん。お腹減ってるでしょ。それ僕の大好物なんだ。美味しいよ。
僕は心の中でニンマリとした。でも霞ちゃんはピザを見てひっと小さく悲鳴を上げ、そのままドアの中へ引っ込んでしまった。
気に入らなかったかな。
僕は肩を落とし、家に戻った。
頭の中はしっかりしているつもりでも味覚はどうやら霞ちゃんのそれとは違ってしまったようだ。
最初のコメントを投稿しよう!