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でも、その事に反論できるほどの威勢は無かった。今の修二には、自身の無力さしか頭にはないからだ。
「でも、澪はこうも言った」
「え……?」
「身体も、これからの人生も俺にあげる。でも、心まではあげられない。これはずっと、お前の物だからだってさ」
「澪……」
「俺には一番欲しい物はくれないそうだ。でも、それも頂くつもりだ。……この手術が終わったら」
「浅田さん……」
「だから、早く資料をよこせ。お前の持ってる物全て」
光成はそう言うと、勢いよく修二の襟元を掴み、睨め付ける。その眼差しはギラギラと滾り、欲しい物は全て手に入れると言っているようだった。
「手術は失敗するわけにはいかないんだ。俺が、澪を助ける」
「俺は……」
「お前は、俺が完璧なオペをして、それで助かる澪を外から見てろ」
「っ……」
ムカつく。腹が立つ。イライラする。
全て同じような事で、でも、その言葉が全て頭を埋めた。
でも、ここで何を言っても勝てない気がした。それに、執刀医を降ろされた自分に今できる事は、光成に今までの事を全て話す事しかない。
澪を助けたい気持ちは光成だって一緒だ。
ミスをしたら、澪の身体はそのまま終わりだ。
そんな結果、絶対にしてはならない。
「資料は……こちらです……」
受け継ぐ者へ、託す事しかできない修二。
(くそっ……)
修二は奥歯を噛み締めながら、光成の前に今までの経過や資料を置き、持ち場へと戻った。
「せ、先生!」
すると、看護婦が慌てて修二を呼びに来た。修二が担当していた倖が救急で運ばれて来るとの知らせだ。
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