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修二は慌てて緊急搬送出入口に向かい、救急車が来るのを待った。
救急車は修二が着いたと同時に着き、倖が心臓を抑え意識を失っている姿が運ばれて来た。
「天宮君! 聞こえるか?」
「……」
応答は無かった。
でも、顔色はまだ悪くない。発見が早かったようだ。
「倖ッ! 大丈夫だからな! 助かるからな!」
それは、この必死になって倖の手を握り、声を掛ける男のお陰かもしれない。
その必死な顔に、修二は自分が重なった。だから、倖を絶対に死なせてはならない。そう、強く強く思った。
「よかった……」
早い処置のお陰で、倖は命を伸ばす事はできた。けれど、進行が思っていたよりも早く、倖の余命は短くなっていた。
早く手術を受けさせてやりたい。でも、そのお金は倖にはない。
なにか、方法はないだろうか。
「あの……」
「はい?」
倖の点滴を見ていると、男が修二に話し掛けて来た。男の服には絵具が付着していて、ふと、倖が澪に言っていた事を思い出す。
倖の好きな人が絵を描いている人だと言う事を。
「ありがとうございました」
不器用そうな男は、修二に深く頭を下げそう言った。その言葉に、修二は倖の容態を全て隠さず話した。
本当は、身内以外に話してはいけないのだが、倖とこの男の関係は身内同様だと思った修二は、倖の許可を得ずに全て話してしまった。
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