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それが、倖にも良いと思ったからだ。
男は細い目を大きく見開き、驚いた顔をしていた。やはり、倖はこの男に何も話していなかったようだ。
それほど、倖にとってこの男は大きな存在なのだろう。
「そ……んなに悪いんですか……? 倖は……そんなに身体が悪いんですか……?」
「はい……とても危険です……」
「そんな……嘘だろ……」
男は崩れるように椅子に座り、頭を押さえた。そして、嘘だ、嘘だと何度も呟き、身体を震わす。
その姿が、修二は見てられなくて目を逸らした。すると、男が立ち上がり修二に詰め寄った。
「た、助かる方法はないんですか? お、俺ができる事ならなんでもする。お願いだ……助けてくれ……」
途中から敬語ではなくなった所が、その男の必死さを物語る。
「名前……」
「え?」
「名前、教えて頂けますか?」
「名前?」
その時。修二は、ふと男の名前を聞いた。なぜ聞いたのかは自分でも分からない。でも、聞きたかった。
「柿崎壱……」
「イチ……」
その名前に、修二は頭に絵が浮かんだ。まさかと思った。
「あなた、イチって名前で絵を出展してますか?」
「え……? はい」
その返答を聞き、修二の心臓が高鳴った。
間違いない。澪が気に入ったあの絵の画家だ。
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