13.受け継ぐ者よ

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 それが、倖にも良いと思ったからだ。  男は細い目を大きく見開き、驚いた顔をしていた。やはり、倖はこの男に何も話していなかったようだ。  それほど、倖にとってこの男は大きな存在なのだろう。 「そ……んなに悪いんですか……? 倖は……そんなに身体が悪いんですか……?」 「はい……とても危険です……」 「そんな……嘘だろ……」  男は崩れるように椅子に座り、頭を押さえた。そして、嘘だ、嘘だと何度も呟き、身体を震わす。  その姿が、修二は見てられなくて目を逸らした。すると、男が立ち上がり修二に詰め寄った。 「た、助かる方法はないんですか? お、俺ができる事ならなんでもする。お願いだ……助けてくれ……」  途中から敬語ではなくなった所が、その男の必死さを物語る。 「名前……」 「え?」 「名前、教えて頂けますか?」 「名前?」  その時。修二は、ふと男の名前を聞いた。なぜ聞いたのかは自分でも分からない。でも、聞きたかった。 「柿崎壱……」 「イチ……」  その名前に、修二は頭に絵が浮かんだ。まさかと思った。 「あなた、イチって名前で絵を出展してますか?」 「え……? はい」  その返答を聞き、修二の心臓が高鳴った。  間違いない。澪が気に入ったあの絵の画家だ。
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