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修二は壱にあの絵の話しをした。
修二があの絵に関して知っているのは、〝イチ〟と言う人間が描いたと言うことだけ。
ただ、それだけだった。
なぜ、知ってるのか。それは、澪がトイレに行っている間に美術館の中にいたスタッフに聞いたのだ。そのスタッフが知っていたのがその名前で、修二はずっと、その名前の画家を探していた。
「それ、俺です」
「やっぱり……」
もう一度、澪にあの絵を見せたかった。その為、空いてる時間で探し続けていた。でも、見つからなかった。
「あの! お願いがあります!」
「え……?」
突然の申し出だった。壱が携帯であの時見た絵を見せ、修二にこう言ったのだ。
「あの絵! いくらでもいいんで買って下さい!」
「え? でも、あの絵は貴方にとって、とても大切な物でしょ?」
「はい、大切です。倖も好きな絵です。でも、今の俺にとっての最高傑作はこれだけで、評価されてるのもこれだけで……」
壱は自身の不甲斐なさに奥歯を噛み締め、悔しそうな顔をしていた。
そんな壱の顔を見て、修二は決心した。
「2500万円でどうでしょうか?」
「え……? にせん……ごひゃく?」
「はい。天宮君の手術費用と入院費用など、全て計算したら出る金額です」
「で、でも……あの絵にそこまでの価値は……」
「なら、これからそれ以上にして下さい」
修二は壱の肩をポンッと優しく叩き、そう言う。
「先生……」
修二はその絵の価値がどうなのか、そんな事はどうでもいい。
ただ、その絵を澪が好きだと言った。そして、その額を修二が決めていいのなら、その金額が妥当だと修二は思った。
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