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澪の笑顔が見れる。そして、倖を助ける事ができる。
こんな素敵な等価交換はない。そう、修二は思った。
「ありがとうございます……」
でも、それは壱にとってプレッシャーになるのかもしれない。
今も素敵な絵を描いているのに、その価値を上げろと修二は言ってしまった。
そんな事、修二は一つも望んではいない。けれど、壱は修二のその言葉に、メラメラと燃えるような闘志が込み上げているように見えた。
もしかしたら、壱の何かを刺激したのかもしれない。それは、いい意味で。
「先生に買って貰ったその絵の価値を、倍以上にしてみせます。絶対に損はさせません」
「楽しみにしてます」
修二はそう言うと、壱に向かって右手を差し伸べた。そして、その手を壱がガシッと掴む。
「売買は成立ですね」
「はい。倖の事、よろしくお願いします」
「任せて下さい」
倖の命は絶対に助ける。
もう、不安なんてさせない。悲しい想いもさせない。倖が壱と、これから先、ずっと幸せな日々を過ごせるよう、自分ができる事を全て捧げる。
自分は医者だ。
人の命を助ける医者だ。
(そうだった……俺は医者だった……)
修二はこの時、自分が医者だと言う事を改めて感じた。
澪だけではなく、他にも自分を求め、助けを求めている人がたくさんいる。
そんな事、分かっていたはずなのに、頭の中はいつも澪の事だけだった。
だから、駄目なのだ。自分では、澪を助けてあげる事はできない。
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