13.受け継ぐ者よ

9/19
前へ
/200ページ
次へ
 好きだ。  誰よりも、澪が。 (助けたかった……俺が……)  でも、それはできない。  澪にメスを入れる事が想像もできない。  修二は、点滴を受け眠る倖を見詰め、心の中で感謝を述べる。  倖のお陰で分かった。  澪が他の誰よりも別格で、修二が唯一、自身の手で助ける事ができない人物だという事を。 (でも……俺にはできない……)  修二は個室から出ると、歩き出す。そして、光成の元へと行くと、光成に澪の身体の事を全て話した。  たぶん、必要の無い話しの方が多いだろう。そこは心配をするような部分ではない。そう、光成に言われたが、修二は予測や万が一を見越して全てを話した。  自分ができる事を、してきた事を伝えたい。そう、思っての行動だった。  修二は伝え終えると身支度を整え、医院長の元へと行き、明日の休暇を申請した。  その申請は受理され、修二は明日、澪の側につきっきりでいる事を許された。  その事を伝える為、修二は澪の部屋に顔を出す。 「修二……」  澪は修二を待っていたかのように、修二の顔を見るとホッとした表情を向けてくれた。  その顔に、修二もホッとする。 「少しいいか?」 「うん。修二なら良いよ」 「そっか……俺なら良いのか」 「うん。修二ならいつでも来て良いよ」  澪はそう言うと、修二の方に左手を伸ばした。その手を修二はギュッと掴み、手を絡める。 「光成君から聞いたよ……修二、僕の執刀医じゃないんだってね……」 「あぁ……」 「まさか、光成君が手術するなんて。思っても無かった……。ずっと、修二だと思ってたから……」 「俺もそのつもりだった……」 「でも、それって修二にとったらとても酷な事をさせてるんだよね」 「え……?」 「僕、今まで考えて無かった。修二になら、全てを捧げられるって思ってたから」 「澪……」 「でも、それは今でも変わらない。僕、修二になら僕の全てをあげられる。身体も、心も、全て……」  光成には渡せない物。それを、修二だけが持つ事を許されている。  愛されているのだ。こんなにも愛おしい人に。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加