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---ナカザワクン……。
その声を聞き、修二はこの心臓の想いが通じた。
この心臓の持ち主は、生きたかったのだ。まだ、生きていたかったのだ。
なのに、突然の事故で亡くなってしまい、こんな事になってしまった。
このドナー提供者だって、心臓の中で生き続けている。なら、恐怖心や不安だって、その心臓に残り続けているはずだ。
なら、その全てを取り除いてやりたい。
修二は、鼓動を早くする心臓をそっと両手で優しく包み、告げる。
「俺が、君の事も愛すよ」
これからは、澪だけではない。澪と一緒に生き続ける君の事も一緒に愛していく。
「何かあった時は俺が命懸けで助ける。君を絶対に一人にはしない……だから……」
修二はグッと目を瞑り、心からその心臓に懇願した。届いてくれ。そう、願いながら。
「これから、澪と一緒に生きてくれ……」
そう、ドナー提供者の心臓に伝えた。
「せ、先生……」
すると、その修二の願いが届いたのか、心臓が突然静かになった。
安定した鼓動に戻ったのだ。
修二は、そっと、その心臓を澪の中に収める。すると、心臓は今までそこにあったかのように澪の中に綺麗に収まり、受け継がれて行った。
そして、一つ一つ切断された物を繋げて行くと、まるで今までの事が嘘みたいに澪は息を吹き返した。
修二はそれを見届けると傷を塞ぎ、今までの事、全てを終わらせたのだった。
これで、もう、何も心配する事はない。
そう思った瞬間。修二は腰を抜かしそうになる。でも、目の前の男が腰を抜かしていたので、修二はかえって冷静にできた。
「中澤先生! すごい! すごいです!」
周りにいた麻酔科医やオペナースは修二にそう涙目で言っては、感謝の言葉を告げて来た。
けれど、修二は皆にこう告げる。
「いや、俺が来るまであの状況を保ってくれていた周りのお陰だよ。浅田先生の腕も良かったから、出血も無かった。ありがとう」
修二は光成や、周りの人間に深く頭を下げた。そして、澪に顔を向ける。
「おかえり、澪」
よく頑張りました。そう、心の中で澪に告げる。すると、少しだけ澪が笑ったような気がした。
そして、この手術がこれから、【愛の手術】と言われて行く事を、修二と澪は後々知るのだった。
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