0.プロローグ

2/3
前へ
/200ページ
次へ
 その日は暑く、ギラギラと太陽が地面を照り付けるほどの炎天下だったと母はいつも言っていた。  初産だった修二(シュウジ)の母親は、貧血気味だった為に、8月の半ばに控えた予定日を目前に暑さや食欲不振により自宅で倒れた。  だが、不運は続き、そのまま救急車に乗ったは良いが、担当医だった医師が昨日盲腸になって入院した事を思い出し、立ち往生。  受け入れを何処にするか悩んだ。  そんな母親の為、一緒に乗っていた修二の父親は、友人が理事を勤める総合病院に頼み、そこの産婦人科に早めに入院できないかと頼んだ。  それが、浅田澪(アサダレイ)の父親だった。  その時期に、澪の母親も澪を産む為に入院していて、なんの運命か、昔から仲が良かった修二と澪の母親は、二人部屋の同室を希望し、仲良く二人が産まれるのを待つ事を選んだのだった。  そのお陰で、修二と澪は産まれる前から母親のお腹の中で出会う事が出来た。  それは必然なのか、それとも偶然なのか。修二は未だに貧血気味だった母親と、担当医だった医者が盲腸になってくれて良かったと思っている。  だって、そんなハプニングが無ければ、澪とはこんな風に深く繋がる事は無かったはずだ。  それに、自分が医者になる事も絶対にあり得なかったと言える。  澪の存在は修二の人生を全て動かした。それは、仕事だけではなく、人を愛する心も全てだ。  好きだから離れたくはない。  好きだから側にいて欲しい。  そんな独占欲も澪を好きになって初めて知った。 『ねぇ、修二……最後にぎゅっと抱きしめて……』  澪は生命に関わる手術の時、いつも修二にそう言って笑い、修二を困らせる。  そして、尚更、澪の存在の大きさを教えられた。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加