夜酒ー溺れー

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震える手で酒を注ぐ、その様子をじっと惟長が見つめ続ける。 酒を注ぎ終わると盃から手を離す。 惟長がその盃から口を付け飲む様子をじっと右近は見つめる。 ぞくりとした感覚がまた身体を襲う。 「甘いの…………」 「はっ? 甘いとは…………」 「酒だ……主が注いだ酒が甘く感じるのよ。」 ーー俺が注いだ酒が甘いとは……一体どの様に甘いのか気になる、気になってしまうではないか…… 「右近、貴様もどうだ?」 「申し訳ございません、私は酒には弱くて……」 つまらぬなと呟くと盃を床へ放り投げ立ち上がり右近の手を掴むとその手に酒を注ぎ始める、つんと酒の匂いが香る。 手から微量の酒がこぼれ落ちる、こぼれた酒の滴を惟長は舐めるそして手に残った酒に唇を付け飲み干す、そして残った酒を舐めていく。 右近は自分の顔が赤く火照ってるのに気づいた、酒を飲んだ訳でもないのに酔っている感じがするのだ…… 「すまんの、少し酔ってしまった。 膝を貸せ、寝る。」 「膝を……でございますか……?」 訪ね返すと惟長は右近の膝にごろんと横になる、そして手を伸ばし顔に触れ頬をそっと撫でるように触る。 「柔らかいの…… 主が女子だったらわしの……いいや何でもないわ…… 寝るからしばらくこのままにしてくれよ。」 「女子でしたら私を室にしたいと?」 「ふっ、さあな…… もう寝る、あとは頼むぞ右近。」 「惟長様…………承知いたしました。」 頬から手が離れ惟長が眠りについたのを確認すると右近は惟長の頬にそっと唇を付けた。 今宵は甘く酔いしれた時を過ごしたのであった。
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