19人が本棚に入れています
本棚に追加
只、立ち尽くし、遠ざかる彼の背中を見つめているだけ……。
何がしたいのかも分からない。
何か言おうと思えば思うほど、唇は固く閉ざされ息苦しくなる。
……どうしよう。
そう思った時だった。
彼がくるりと振り返り小走りで私の元へと戻って来た。
え……?
「あのさ」
「……うん」
「俺さ」
「うん」
「今、美容師やっててさ」
「ぇ……う、ん」
そこまで言うと、彼は徐に私が手に持っていたスマホを奪い取り、何かを入力し始めた。
「一応着付けとか出来るんだ。だからさ……もしもだよ、万が一だけど……」
そう言いながら、私にスマホを差し出した。
その画面には携帯の電話番号らしき080から始まる数字達。
「必要だったら呼べよ。何時でもいいから」
そしてまた、あの笑顔。
私の大好きな、キラキラの優しい、あの彼の顔。
それだけ言うと、彼は『じゃあ』と小さく呟き、今度は振り向きもせずに走って行ってしまった。
私の手の中に残った小さくも確かな彼の痕跡。
『何時でもいいから』
ならそれ、今でもいいって……事ですか?
2016.1.24(日) by KAORI
~ひとこと~
1月中に公開出来て良かったです(^_^)
これから月一以上、頑張ります♪
最初のコメントを投稿しよう!