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ワーッ、と耳鳴りがひどい。
彼女は肩で激しく息をしたまま、クローゼットの中の服の間に埋もれるようにしゃがんで隠れていた。
閉じたクローゼットの外では恐ろしいほどの喧騒と怒号、悲鳴が響いている。
──一体、この城内で何が起きているのだろう?
ガタガタと、身体中が震えている。
いつもは侍女がきれいに結わえてくれている長い黒髪はそのまま肩に流れ、ゆったりとした寝巻きからのぞく細い腕や足はひどく頼りない。
先程から、歯の根も合わない。
「──まだ第二王子と王女がいるはずだ!
逃がすな!確実に捕らえて始末しろ!!」
ガシャガシャと鎧と鎧が激しくぶつかり合う音と共に怒鳴り声が響いてくる。
彼女は、ますます動悸がひどくなるのを感じた。
クローゼットの扉の隙間から、ちらちらと赤い光が見えだした。
炎だろうか。
そういえばどこか焦げ臭い。
父王は、母は──…そして二人の兄たちは、一体どうしただろう?
真夜中の突然の襲撃に、ひとまずこのクローゼットの中へ隠れてしまったが、見つかるのは時間の問題だろう。
それとも徐々に温度を上げ、迫っているらしい炎に巻かれて死ぬ方が先か。
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