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男はしばらく俺を見た後に、いう。
「──私は……ダルクという。
君は一体…?」
自分の名を名乗るのに、ほんの何分の一秒か、間があった。
本名じゃないのかもしれない。
直感的にそう感じつつ、俺は男に向かっていう。
「──私は、リアよ。
ここは私の家だけど…。
あなた、いきなり人の家に上がり込むなんてどーいうつもり?
泥棒か何かなの?」
ぺらぺらと、口が勝手に動く。
さすがは口先八丁と言われた俺だ。
自分自身にちょっぴり感動するぜ!
ところが男、ダルクは俺をしげしげと冷静な眼差しで見つめ、眉をひそめる。
ぎくりとした俺に気づいたのかどうか──。
「…もう一度問うが、君はどこの誰だ?」
問いかけてくる。
俺は…たらりと冷や汗が流れるのを感じだ。
ピン、と一つ人差し指を立てて、聞き返す。
「その質問に答える前に、一個質問。
あなた、ゴルドーの手先?」
一応まだ女声のまま問うと、ダルクが妙な顔をする。
「ゴルドー…?誰だ、それは」
「極悪金貸し ゴルドー。
この辺りじゃわりかし有名よ」
言ってやると、ダルクは訳がわからないって言わんばかりに肩をすくめた。
返ってきた返事も「知らん」の一言。
俺はほんのちょっと息をつく。
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