序章 1 ミーシャ

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息を潜めたいのに、肺がいうことを聞かない。 ──誰か…… 願い、目をつぶった、瞬間に。 ガッと乱暴にクローゼットの扉が開け放たれた。 そして、腕を掴まれ乱暴に引っ張り出される。 「きゃあっ…!」 半ばパニックになりかけ、声をあげた彼女に。 「ミーシャ姫、私です」 冷静な、けれど緊迫した声がかけられる。 よく知った、頼りがいのある男だった。 長兄の身辺を守る騎士、ジュードだ。 ミーシャはその事に気づき、「ジュード…」と息をつきながら答えた。 騎士、ジュードがいう。 「ご無事でしたか。 アルフォンソ様の命により、お助けに上がりました」 アルフォンソというのは、長兄の名だ。 ミーシャはぞくりと背筋に凍りつくようなものを感じた。 どうしてこの非常時に、ジュードは主を──…アルフォンソを放ってここへ来たのだろう。 「──兄上は…?」 心許なく問いかけた先でジュードの眉がピクリと動いた。 それが答えのようなものだった。 ジュードはまっすぐミーシャを見、いう。 「話は後です。 とにかく今は、ここを無事に抜けることだけ考えましょう。 私についてきてください。抜け道からあなたを外へ逃がします」 有無を言わせぬ口調で言って、ジュードがミーシャの手を引いて部屋を出る。 部屋の外は──まさに地獄だった。
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