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息を潜めたいのに、肺がいうことを聞かない。
──誰か……
願い、目をつぶった、瞬間に。
ガッと乱暴にクローゼットの扉が開け放たれた。
そして、腕を掴まれ乱暴に引っ張り出される。
「きゃあっ…!」
半ばパニックになりかけ、声をあげた彼女に。
「ミーシャ姫、私です」
冷静な、けれど緊迫した声がかけられる。
よく知った、頼りがいのある男だった。
長兄の身辺を守る騎士、ジュードだ。
ミーシャはその事に気づき、「ジュード…」と息をつきながら答えた。
騎士、ジュードがいう。
「ご無事でしたか。
アルフォンソ様の命により、お助けに上がりました」
アルフォンソというのは、長兄の名だ。
ミーシャはぞくりと背筋に凍りつくようなものを感じた。
どうしてこの非常時に、ジュードは主を──…アルフォンソを放ってここへ来たのだろう。
「──兄上は…?」
心許なく問いかけた先でジュードの眉がピクリと動いた。
それが答えのようなものだった。
ジュードはまっすぐミーシャを見、いう。
「話は後です。
とにかく今は、ここを無事に抜けることだけ考えましょう。
私についてきてください。抜け道からあなたを外へ逃がします」
有無を言わせぬ口調で言って、ジュードがミーシャの手を引いて部屋を出る。
部屋の外は──まさに地獄だった。
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