ポテト

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「だからさ、それはありえないな、って思ったわけ」  あまり天気の良くない日だった。友だちと会う約束をしていて、それはちょっと服を見に行こうとか、タブレットに手を出してみたいんだけど一緒に選んで欲しいとか、確かそんなような理由で誘われた。待ち合わせ場所の行きかう人々の波間の中から、まるで海洋生物みたいに彼は現れた。 「それって箱にかいてあるの? 石鹸?」 「石鹸に。なんかセットでさ、てかそれもレインボーでムカつくんだけど、一個出してみたらよ、うすーく彫ってあるんだけど」 「へえー」 「てか今持ってるから、あげるから、見せる。お店入ろ」  大きなカバンを背負っているのは、買ったものを詰め込むためだけではなかったらしい。ボクはそんな彼の強引な腕引きに逆らえず、つまり、同じ男なのにガタイが全然違うとか性格の問題とかそういう理由で、唯々諾々と人波を掻き分けて、とりあえずのファストフード店へ入った。  注文を終えて席に座ると、窓際の、周囲にあまり人のいない角で、彼はそういうところが好きなのだった。 「まあちょっと押し付けちゃうのは言いすぎたけどさ、ホラ、これ」 「へええ、きれいだね、包装」 「でしょー? だから騙されたっていうか、あんまああいう人から物もらわないほうが良いかも」  白い、なんて事のない紙袋から出てきたのは二次の模様と青空が描かれた一抱えくらいの箱で、今朝から曇り空を眺めて過ごしてきたボクの目には確かに随分輝いて見えた。それでも、彼の渋い表情に固唾を呑んで見守っていると、中に納まっていたのは更に小さい箱で、整列したその一つが取り出される。 「これ、開けちゃったやつ。ま、サンプルだと思って見てみてよ」と、彼はボクにそれを渡して、忌々しそうにポテトを口にした。 「ありがと……えーと、ここはがすの?」 「どこでもいいよそんなの、使わないし」 「……あ、やっぱ開けると言い匂いするね」  手のひらサイズの小箱に入っていたのは、赤い色の石鹸だった。卵形で、それこそ鳥の巣のように、細く切った紙をくsyくしゃにした緩衝材も一緒に詰め込まれている。 「あー、もう見たくない、そこ、その真ん中にでっかく彫ってあるでしょ」
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