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――“Gay is OK”
ファストフード店のオレンジの明かりが影を作り、その言葉を浮き彫りにしていた。一目で、すごい商品だな、と思った。形とか、においとかは常識の範囲内だけど、刻まれたその無機質な字体に、どこか呪いのようなものすら感じる。
「ああ、もう、戻して。それは回収するから」
「あ、うん……」
ボクはまたもや唯々諾々と、彼が手で押しのけそうになる小箱のふたを閉じて、催促されるまま、それだけを彼のトレーの上に置いた。いつのまにかポテトは半分異常なくなっていたし、紙コップの水滴がすっかりその周りをびしょびしょにしていた。
「とにかく残りは……あ、今はいいけど、お土産。また後で渡すから」と、彼は問答無用でレインボーの紙袋を引っ張り上げて、またリュックにに詰め込んだ。名残のように、ごちゃまぜになった石鹸たちの香りが鼻先をなでた。周りに人がいなくて良かった。ボクだって、あまりこういう匂いの中で食事はしたくない。
「ごめん、食欲減退だね」
「あ、いやー、すぐに慣れるから」
そう言うと、彼はしかめっつらを忘れたような、今日はじめての満面の笑みで、
「ありがと、そういう付き合いやすいところ、いつも感謝してる」と返してきた。
「なに、改まって」
「んー、ちょっと最近、こういうこともあったし、安らぎが欲しくて」
「買い物が?」
「……ま、そういうコトにしとこう」
ボクが食べ終わるまで(というより、シェーキしか買っていなかったから飲み終わるまでだけど)、ちょっと気分が良くなったらしい彼と買い物の目星について話して、雨が降りそうかとも思ったけどそれはグズグズするばかりで、外に出るとそれでも新鮮な空気に心が洗われた。
彼がこの辺りで知っているという古着屋さんとか、雑貨屋さんとかを見て回って、どこからでも見える高い建物の電気屋さんに入って、店員の誘いをかわしながらあれこれ悩んでも、夕方には全部の用事が済んでしまっていた。
「今日はホント、ありがと」
「ボクも楽しかったし。あのなんだっけ、ムックリ? とかいう楽器」
「アハハ、あそこのおじさん毎日練習してるんだって、それで――」
「上手いんだ」
「そう」
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