レジェンド

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「瑠璃、何をぼうっとしている。あと少しで皆が来る。来たらすぐに出せるようにしておかないと、約一名が騒ぐ。ハラ減ったとうるさくてかなわん」  真朱の口から、腹減ったという言葉が出たからおかしくなり、くすっと笑う。 「真朱さまったら、腹減っただなんて」  真朱は平気な顔で、野菜を刻む手をとめない。 「そなたの口の悪い夫の真似をしたまでのこと。あの者が一番味にうるさいし、大騒ぎをする」 「あ、紫黒くん。すみません。いつも文句が多くて」  前回は、真朱の作ったピザに文句をつけていた紫黒だった。ピザソースをもっと工夫した方がいい、いろいろな種類のチーズを使えと言ってきた。 「でも真朱さまも負けておられませんでした。言い返してましたよね」 「ん、わらわもあれは腹が立った。けれど後で反省したのだ。紫黒殿は本当のことを指摘してくれた。わらわも後で食べて、言われた通りにすればもっともだと実感したのだ。紫黒殿の言う通りにすればもっとおいしくなるであろうな」  瑠璃が安心した表情になった。 「それならよかった。そう紫黒くんに伝えておきます」 「いや、言うな。それを言ったら、わらわが負けたような気になる。次回はその忠告を参考にその上をいくものを作って驚かせてやる」と頼もしい真朱だ。  瑠璃が大鍋で湯を沸かしていた。皆が到着したらパスタを入れるつもりだ。ソースはもう準備ができていた。  真朱も石のオーブンからいい匂いのするフォッカチアを取り出していた。  瑠璃は流しへいき、サラダ菜の水が切れているかどうか確かめて一振りし、ボウルに移す。  そんな時、瑠璃の背で真朱がぽつりと言った。 「瑠璃、ありがとう。そなたには感謝している。王のために料理ができる日が来るとは夢にも思わなかった。お側にいられるだけでもうれしいのに。今ほど女人に生まれてきたことを幸せに思ったことはない」  いきなりそう言われて手が止まった。 「いえ、そんなこと」 「瑠璃、王を頼むぞ。紫黒殿と一緒に守ってほしい」  その言葉になぜか憂いを含んでいると感じた。それはまるでお別れの言葉のようだったから。  真朱を振り返ると、ちょうど切り分けたフォッカチアをダイニングルームのテーブルに持って行く後姿だった。  その表情までは読み取れなかった。  しかし、またすぐに真朱が台所に顔を出した。
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