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そんな幸せな生活の中、時は止ることなく無情にも思えるその一刻、一刻を刻んでいく。
シアン王がキャンベルリバーのシトリン宮殿で過ごす時は常に真朱も同行している。
満月までの七日間を過ごすので、瑠璃もその間、家から宮殿へ通うことができる。紫黒もできるだけ家に帰るようにしていた。
そのうちに真朱も、瑠璃たちの家を訪れるようになった。なにしろ隣の家は実家なのだ。もちろん、その時は護衛がつく。
真朱は地元育ちだけあって馬も乗りこなし、牛から乳を搾取し、クリームにわけてバターを作ることも当然のことのようにやる。
瑠璃が昨年一年間、一生懸命に教えてもらったことを全部知っていた。
紅桔梗のようにパンを上手に焼くのだった。幼い頃から家事を一切させようとしなかったオリーブの目を盗んで手伝ってきた成果だという。
瑠璃の目の前にいる真朱は、今まで銀朱に飼われていたあの頃とは別人のように生き生きしていた。
料理以外にも刺繍をたしなみ、パワーストーンを使ったアクセサリーを作って楽しむ積極的なティーンエイジャーだった。
その日は夕方から瑠璃と真朱で夕食会を開く予定でいた。
瑠璃たちは朝から菜園の葉を取り、掃除もして忙しくしていた。招待客は言わずと知れた面々だった。
シアン王、紫黒、烏羽、その妻、白藍だ。
瑠璃と真朱の合作料理だから、瑠璃がパスタを作り、真朱がハーブをふんだんに入れたフォッカチア(ハーブやオリーブなどを練りこんで焼いた平たいパン)を焼く。
もうすぐ半年がたとうとしていた。だから、瑠璃は心落ち着かない日々を過ごしていた。真朱のことが心配なのだ。
しかし、見る限りでは健康上も変わりなく、元気に過ごしていた。
こんなふうに明るく笑っている真朱が突然いなくなるということが考えられないのだ。
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