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「帰ってきた。準備を」真朱が目を輝かせて言った。
腹を空かせた客たちが到着したのだ。
我に返った瑠璃はすぐに沸き立っている鍋にパスタを入れる。
ふと目を上げると、もう台所にシアンが立っていた。王は空間を跳ぶことができるから、玄関から入ってこなかったと見える。
「招待、どうもありがとう。皆で飲もうと思ってワインを持ってきた」
シアンがワインの瓶を瑠璃に差し出した。それを受け取りながら、膝を折り、頭を下げる。
「あ、シアン様。お早いお着きでございます」
真朱もシアンを見て、顔がほころぶ。
「ん、よい匂いだ」
真朱が玄関先でドアを開ける。シアンはその後ろに立って、馬車で駆けつけてきた紫黒達を出迎えた。
紫黒は家に入ってくるなり叫んだ。
「ああ、腹減った。メシ」
その途端、真朱と瑠璃が吹きだした。
「紫黒殿はいつも第一声がそれじゃ。もう挨拶としか受け取れぬ」
紫黒は出迎えが真朱だと再確認し、自分の失言に気づくような表情を浮かべる。恭しく頭を下げながら言う。
「あ、いえ。失礼いたしました。王妃さま、本日は誠にご機嫌、麗しくないご様子でございますな。わたくしとしては遺憾にございます。帰るなりいきなり、やりこめられたわたくしとしては……」
紫黒が回りくどい皮肉な挨拶を始める。真朱はもういらぬとばかりに首を振った。
「わかった、もうよい。さあ、中に、と言ってもここは紫黒たちの家。わらわが言うのもおかしいのう」
烏羽、白藍も台所にいる瑠璃に顔を見せてくれた。二人とも変わりない様子。
瑠璃はパスタを茹でながら、いつもよりはしゃいでいる真朱の声を聞いていた。パスタが茹で上がり、既に作ってあるソースに絡める。
肉が苦手なシアン王のために、シーフードがふんだんに入ったトマトソースベースだった。
料理の盛り付けは高さだということなので、中央が盛り上がるように工夫した。白藍がそれを運んでくれる。
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