恋は盲目というけれど

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瞼を開け、最初に目に飛び込んできたのは黒く塗りつぶされた"誰か"の顔だった。 「華月(はづき)! よかった……」 "誰か"は私の名前を呼ぶと両手でベッドに横たわる私の頭を優しく撫でた。その手の温もりと感触があまりにもリアルで、"誰か"の顔が黒く塗りつぶされて見えないことは、夢ではなく現実のことのように思われた。 「講義中に急に倒れてびっくりしたんだから」 "誰か"はほっとしたような少し怒ったような声で言う。この声、聞いたことがある気がする。でも誰の声なのか分からない、思い出せない。人は声から忘れていくというから、多分声の記憶は曖昧なものなんだろう。その曖昧なものしか"誰か"が誰なのかを知る手掛かりがないのだから、分からないのも仕方ない。 「あの、どちら様ですか?」 私はベッドから起き上がると、思い切って"誰か"に尋ねた。と、その瞬間、空気が凍った。 「華月、俺だよ。葵(あおい)だよ。忘れちゃったのかよ……」 え、あ、葵だったの、この声。嘘でしょ。私、生まれた時からずっと一緒にいる幼馴染の声すら分からなかったの? そのことがとても腹立たしくて、私はぐっと両手を握りしめた。 「ごめん、葵。忘れたわけじゃないの」 私は黒く塗りつぶされた"葵"の顔に目を向ける。 「葵の顔がね、見えなくなっちゃったの」
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